Vol.4「前田景さん 美瑛での暮らしの風景」

2023.12.26

東京から、美瑛へ。

祖父ゆかりの地で育む、

新たな暮らしと

家族の時間。

 

光走る 前田景 2021

 

頂を白く染める、初冬の十勝岳連峰。

ふもとに広がる美瑛の丘は、季節ごとに美しい色に染まります。

東京から美瑛へ移住してきた、フォトグラファーであり、アートディレクターとしても活躍する前田景さんとそのご家族。

SNOWSのコンセプトでもある「冬」を中心に美瑛の風景を撮り続ける景さんに、共感を覚え取材を依頼すると、「冬がつないだご縁ですかね」と快く引き受けてくださいました。東京から移り住んだひととして、フォトグラファーとして。それぞれの視点から見える、美瑛の暮らしを教えてもらいます。

 

 

移住を決めた

いちばんの理由は、

祖父のギャラリーの再建。

 

景さんの祖父・前田真三さん(1922-1998)は、美瑛の田園風景の美しさを世に知らしめた、日本の風景写真の第一人者。長年、美瑛を撮り続け、1987年にフォトギャラリー『拓真館』を開設しました。

「祖父亡き後、来館者は減り、建物は老朽化。拓真館を何とかしなければ、という思いがずっとありました。でも再建するには美瑛にいないと難しい。ちょうど娘が小学校にあがるとき。移住するなら今だと思ったんです」と景さんは振り返ります。

「住んでみていちばん驚いたのは、目の当たりにする自然の姿です。

一晩で雪景色になったり、春は一気に緑が芽吹いたり。風景が劇的に変わるのが衝撃でした」。

東京生まれ、東京育ち。都会で暮らしてきた景さんにとって、美瑛での生活は不安もあったといいます。「都会と田舎という2つの世界があるならば、まるまる半分を知らないまま一生を終えるのはもったいないと思ったんです。妻も同じ意見でした」。

さまざまな思いを経て、2020年4月、ついに美瑛への移住が実現します。

 

 

暮らしの

変化とともに、

変わりゆく働き方。

 

景さんの仕事は、実に多岐に渡ります。フォトグラファーとしての活動、書籍やWEBなどのアートディレクション。妻で料理家のたかはしよしこさんのレストラン〈SSAW BIEI〉のクリエイティブディレクターとして、ブランディングやイベント企画など、料理以外のすべてをフォロー。移住後は拓真館の館長として、展示の企画・ディレクションも手掛けています。

「移住後は、それぞれの仕事にかける時間が変化しました。東京ではアートディレクターとしての仕事が大半で、写真は依頼されるものが多かった。美瑛に来てからは、日々の暮らしや自然のなかで自発的に撮るものが増えています。デザインの仕事の割合が減った分、拓真館や〈SSAW〉にかける時間が増えましたね。敷地内の草刈りや葉っぱの掃除、除雪も僕の仕事。これをサボると大変です!季節は待ってくれませんからね」。

 

 

より深まる、

家族の時間と

季節に触れる時間。

 

移住後の生活を「学校から帰ってきた娘におかえりを言えるのがいいですね。家族といる時間も増えました」と話すお二人。

「東京では時間に追われていたけど、いまは季節に追われている感じ」と景さんが言えば、よしこさんは「美瑛に来て、より季節を追いかけられるようになりました。山菜やきのこなどの、季節の恵みを自分たちで採れる。目の前には、生産者さんの畑と食材がある。すごく豊かですよね」。

春夏秋冬の頭文字を取った〈SSAW〉は、その名の通り、四季折々の食材を使った料理を提供しています。

 

 

よしこさんは移住前、東京・西小山でフードアトリエ兼レストラン〈S/S/A/W〉をベースに活動していました。「お店も順調だったので、移転してお客さんが来るのか心配でした」。そんな不安をよそに、いま〈SSAW BIEI〉には、よしこさんの季節の料理を求めて多くのひとが足を運んでいます。

 

 

-20℃まで冷え込む冬も「意外といけた」と笑い合うお二人。雪の軽さに驚いたり、美しさに見惚れたり。「僕らは冬と相性がいいのかもしれません」。フォトグラファーとして、料理家として、住むひととして、自然や季節を楽しむ。厳しさや美しさを連れ、4度目の冬はいよいよ本番を迎えます。

 

 

※撮影・取材 2023年11月

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